第8章  「バンフへ」


  

  チャチルからウイニペグへはAC系のカームエアが就航している。
  行きに使ったネイティブの運行する便よりかははるかに豪華といっていいだろう。
  30人乗りの座席にアテンダントが1名。
  機内食はハンバーガーだった。

  ウイニペグ空港バゲージクレームカウンターの小部屋は
  スーツケースのなくなった客で次第にごったがえしてきた。
  国内線のダイヤは、あってないようなものだった。
  2時間経てば、TV画面は全然変わってしまうような時刻表だ。
  カナダ国内の国際空港間の路線を最優先に発着させている。
  足止めされた客を次々に乗せて、満席になれば地方都市への
  飛行機を急きょ路線変更して、それにあてがうのだった。
  当初予約していたウイニペグ発カルガリー行きAC3687便はPM2:15発。
  乗り換えの時間は過ぎている。でも果たして飛んでいるのか
  どうかさえ判らない。となりのカウンターで客が大きい声で
  アピールしている。「どうしてくれるんだ。宿泊費を出してくれ。」
  なるほど。しっかりアピール。これしかない。
  キっと前を向き、さっきから困惑顔のエアカナダ職員に、となりで
  わめくガイジンになったつもりで言おうとした・・が。
  「Ah〜〜〜。ウ−−(◎_◎) ン?・・・」 「What?」っと職員。
  「So〜・・・(^_^;)ダメだこりゃ。」 「?」
  しょせんニセカナディアンなんだよね〜。なかなかポンポン単語が
  出てこないよ。
  やっぱりフツウのゆっくり英語にした。
  「じゃあ、カルガリーまで行きます。次の便を予約してください。
  それと、できれば日用品がないので代わりのものか何かあれば
  いただけますか?」「OゥKエー、ユーにはこれをプレゼントするよ。」
  もらったのは、エアカナダ特製デイリーグッズポーチだった。
  「次の便は17:20発のAC3699便ネ。それと、宿泊先が決まったら
  ココへテレフォン、わかった?」っとクレーム申請の書類を渡された。

  

  ふぅ。カウンターを出てベンチに座り書類をみると、なにやら
  たくさん書いてある。多分免責事項だろう。滅多にもらえないシロモノと
  前向きに考えて、出発までの間に電話をしたり、
  新聞雑誌を大量に買い込んだ。5日ぶりの新聞。写真雑誌はどれもNYだ。
  スペースシャトルから、何年ぶりかに地球へ戻った宇宙飛行士のような
  そんな気がしたと言ったら大げさかもしれないけど、まっそれに近い心境。
  バンフにいる友人へ電話をした。もし今日中にバンフへ
  行けそうだったらまた連絡するようにして、今度はカルガリーの
  レンタカー会社へTEL。繋がらない。国内線の混乱が原因で
  国内のレンタカーには車を借りたい人たちで長蛇の列ができているらしい。
  配車状況もかなり混乱しているとも聞いた。テロ事件からまだ4日しか経ってない。
  直接カルガリー空港内のレンタカーオフィスへ行ってみるしかなかった。

  ウイニペグ発AC3699便は、定刻?どおり離陸した。
  離陸後間もなく機長からのながーいアナウンス。テロの影響の説明と
  NYへの哀悼。カナダ国歌まで流れた。今回の旅で5回目のフライトになる。
  進行方向から左側の窓からのぞむ地平線の向こうはアメリカだ。
  国境に沿うようにして飛ぶこの路線は、チェックインから厳重な警戒だった。
  金属探知機が4回も鳴ってしまって、危うく別室へ連れ込まれそうになった。
  履いていたホーキンスの金具が原因だった。
  
  1時間の時差のおかげで、時計はほとんど進まないまま
  カルガリー到着。スーツケースがないので身軽だ。
  昨年通った通路は覚えていた。さっさと抜けてレンタカーオフィス棟へ。
  日本からメールで予約していたスリフティ・レンタカーへ行く。
  言うべき事柄は機内でチェックしていた。でもやっぱりドキドキ。
  若い社員が応対してきた。車は余っているか?テロの影響で
  来れなかった。ここの会員登録をしているので身分証明はOKだ。
  初めての利用だから安くしてよ〜、などなど。
  ちょっと待ってと言われ、電話でなにやら話すとこちらに向かって
  OKサインをした。大丈夫らしい。
  「ユーの予約は無効だけど、NYが原因なら仕方ないネ。それにしても
  よく来れたネ。ユーはラッキーだよ」っと、キーをくれた。車種も
  当初の予約した車種だった。
  バンフの友人とウイニペグ空港へ電話をしてから、駐車場へ走った。
  ACのクレームセンターにはバンフの友人宅のアドレスを伝え、
  そのことを友人に伝えると、彼の店で8時半までなら待てるという。
  カルガリーからバンフまで車で約1.5時間。時計の針はもうすぐ7時。
  エンジンをかけてアクセルをふかす。2.7リットルのクライスラーダッジ・イントレピッド。
  日本には輸入されていない、流線型がキレイな4ドアセダンだ。
  空港を出ると、まだ外は明るかった。昨秋この道を通ったときに、
  次回はもっとゆっくり走れるように予定を組もう、っと決めていたのに、
  トランスカナダ・ハイウエイ(TCH)に入るまでの
  都心のハイウエイを爆走する。一年ぶりの左ハンドル右側通行。
  チャチルでの、のんびり田舎道とはワケがちがう。片側3車線でも
  車の量と流れるスピードが超都会派だった。ラッシュの時間でもある。

  TCHに入っても爆走を続けた。カルガリーの街が遠のいて行く頃には
  空はすっかり夕暮れになった。初めての夜間走行だった。
  山岳地帯に入るまでは、広い牧場の中を横断する。当然のように
  外灯がない。真っ暗だ。ヘッドライトのみの世界が、緊張を誘う。
  「インターバル」と呼ばれるパーキングエリアに数分止まった。
  実は、そのときまでライトがスモールだけだったらしい。どうりで暗いと
  思った。走り始めてからライトの必要に気づいたが、スイッチが分からない。
  乗る前に操作をチェックしてなかったのだ。
  カナダ国内では昼間でもヘッドライトは付ける。っというか、
  エンジンをかけると自動で点灯するようになっている。
  広い道路上で自分の存在を分からせるためだ。日本でもこうすればいいのに。
  ただそれは昼間用のヘッドライトの付きぐあいなので、
  夜に使う本来のヘッドライトほどの明るさにはなっていない。

  日本から持ってきたフリスクを3粒も4粒も口に入れて、
  車は山岳地帯に入った。本当に真っ暗になった。おまけに
  道はクネクネだ。四角の黄色い看板が増える。
  「Danger!! Wildlifes」 ときどき柵を飛び越えて
  エルクや熊が横断することがある。このスピードじゃひとたまりもない。
  あー早く落ち着きたいっ 「Banff」の看板が待ち遠しい。
  もう明日は一日ボ〜ッとしてよう、バミリオンレイクのほとりで昼寝してよう。
  お腹が減ったらケラーフーズのサンドイッチを食べよう。そんなことを
  考えていた。
  意識して右側を注視していないとバンフの看板を見落としそうだった。

  午後8時15分、バンフ到着。
  懐かしい町並みが夜の車窓から見えてくる。
  横断鉄道の踏み切りを超え、リンクスストリートを抜けて、
  パークロッジの角を左折。信号をさらに左折すれば、
  メインストリートのバンフアベニューに入る。
  バンフ在住のギフトショップのオーナー、トムさんの
  店は、この通り沿いにある。
  車を駐車場に入れて、店へ駆け込む。昨秋に、みやげ選びで
  お世話になったスタッフのMrs.ソニアが手を振る。
  「Do you remember me!?」「Oh,How are you?!」 うれしかった。
  ハグハグしてから、トムさんに会った。
  昨秋は、身体の調子が悪くて本人とは電話でしか話してなかったのだ。

  「疲れたでしょ?すぐウチに行こう。シャワーでもあびてさ、
  ゴハンまだでしょ?」
  一日がすっごく長く感じるセリフだった。

  本日の移動距離、2300キロ。
  
                
                        つづく
  
  
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