第7章  「忘れ物」

9月15日。今日も天気は晴れ。風が冷たく感じる。
夕べは、遅くまでカメラマンと地元の人たちと飲んだ。
B&Bに帰ってからパッキングを始め、
そのあと最後のオーロラを撮影しに出掛けて、またパッキングを
再開して・・っと、結局ほとんど寝ないままだった。
B&Bでの毎朝の朝食は、パンが焼きあがるまでコーンフレークが出る。
5種類の中から、自分で好きなのを選んで皿に盛ってミルクをかけて食べる。
そのうち焼きたてのパンが出て、玉子料理かパンケーキかを聞かれる。
今日はヒロにとってグーズ夫人が作る最後の朝食なので、
お気に入りのオムレツを頼んだ。食べながらグーズ夫人と話す。
カナダ滞在6日目、だいぶ耳が英語に慣れてきた。彼女は相手が
フランス人だろうと誰であろうと、平気で早口で話す。
最初は全然聞き取れず苦労した。こっちはベタベタの日本人なんだから
もうちょっとゆっくり話してほしいと思ってたが、おかげで頭の思考回路が
「英語を聞く→日本語に訳す→日本語で考える→英語に直して応える」から、
「英語→英語→英語」っと、ダイレクトになった。ニセカナディアンの
誕生?。♪〜( ̄。 ̄) ←トボケガオ
朝食後、出発までの間、壁にかかるハドソン湾の地図を教材にちょっとした
ジオグラフィック調の授業をしてくれた。ハドソン湾からチャチルに北風が吹くと
町は一気に冬の訪れとなる。人々は野生動物と共存しながら生活している。



「アナタがくれた日本のおみやげは、あとでゆっくり開けるわ。」
っと言うグーズ夫人と、B&Bの前でお別れをした。
玄関脇にかかるシロクマのイラストが印象に残った。


8時半にカメラマンの泊まる家で待ち合わせて、空港へ。
カメラマンは、ヒロと一緒の飛行機でウイニペグまで戻り、翌朝バンクーバー
経由で日本へ戻る。そしてまた10月にチャチルへ。NHKとの仕事だ。
チャチル空港へ着き、チェックイン。いろいろ聞かれた。「手荷物の中は?」
「エレクトロ二クス器機は?」「スーツケースの中身は?」
「スーツケースがなくなっても大丈夫ね?」など。小さな空港だから
ボディチェックこそないが、厳重だった。顔が厳しい。
午前9時15分。双発ジェット30人乗りのカーム・エアAC3699便は
定刻どおりチャチルを離れた。
窓に映るチャチルの町並、巨大な倉庫「エレベーター」、ハドソン川がそそぐハドソン湾。
空から見るとチャチルは町というより、辺境にある小さなコロニー(前線基地)のようだ。
かつての交易で栄えた港町も、今は夏1ヶ月、冬2ヶ月だけ賑わう
ちょっと寂しい観光地だ。でも、人間がいかに小さい生き物か、自然が
いかにデカくて尊いものか教えてくれるカナダ国内でも、屈指の大地がある場所だった。
いろいろな意味で、だいぶ忘れ物をしてきたように感じた。
その忘れ物をとりに、また来なくては・・・と感じた。
この時期に訪れる観光客としては、
とてもラッキーな出会いが多かった。来る前の印象とは全然違って、
もっと滞在したかったし、
もっとチャチルの大自然に触れていたかった。
  

    
左にエレベーター、右にはチャチルの町並み。
半島のように突き出た陸地の向こうはハドソン湾が広がる

ウイニペグ国際空港には定刻どおり到着して、
スーツケースをとりにカウンターへ向かったが、待っても待っても出てこない。
ベルトに乗って出てくるのは、チャチル経由で同乗していた
イヌイットたちの荷物だけだ。チャチルから一緒に乗ったほかの2グループ6人ほどの
荷物も出てこない。ベルトは2つあるので、もうひとつのベルトへも
行ったが、何も出てこない。もしかして・・・

バゲージクレームカウンターへ行くと、そのグループも来ていた。
端末で調べてもらう。カルガリーへの乗り継ぎ便のフライトまで30分を切っている。
「ミスター、ユーのバゲージはチャチルにある。すまないが今日はムリだ」
諦めの雰囲気がほんわか漂う。バゲージロストなんて初めてなのに、「また〜!!?」って
思ってしまう。参った。カッコよく「チャチルには忘れ物をしたんで
また行かなきゃいけなくなりましたよ。」なんて機内でカメラマンに言ったばかりなのに、
本当に忘れものをしてしまった。一人で苦笑してしまう。
ハプニングは、またしても果てしなくTo be continuedだった。

チャチル〜ウイニペグ間は、一日一便しか飛ばない区間なので、
スーツケースがウイニペグに届くのが明日。バンフはおろか、
カルガリーに届くのですらいつになるか判らないという。
着替え、生活用品、そして何よりも、日本から持って来た電子辞書が入っていた。
バンフにいる友人がネットショッピングして、かわりに持ってきてあげたのだ。
手荷物に入れるとチェックがキビシイので、手間を省くために
ウイ二ペグまでバゲージにいれておいたのに、それが裏目に出た。
国内線チェックインカウンターは長蛇の列だった。軍人が空港内をマシンガンを
肩にかけ歩く。カウンターでは中身を全部調べ、電化製品は
コンセントまで差し込んで確認されるほどの徹底ぶりだった。

さてどうしよう・・・。
カメラマンはこのままウイニペグに泊まるから問題ないらしい。
自分も泊まった方がいいか、カウンターに聞いたら、よしたほうがいいと言う。
次の目的地まで行った方がいいらしい。空路のダイヤはまだ流動的だという。
でも当初予約していたレンタカーも宿も、既にキャンセルしてしまっている。
バゲージがカルガリーに着いても、
そこからバンフまで持ってきてくれるかも判らないという。
ならばカルガリー泊か?悩んでいる間に、カルガリーへの乗り継ぎ便には
もう乗れない時間になっていた。予定のない旅は、ますます予定そのものが
立てられなくなってきた。


                           つづく
  



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