第15章  「Two Riding」

 Mt.アシニボインをあとにして、
 今から約2万年前に氷河が通った跡をなぞるようにヘリは飛ぶ。
 目の前にはハーフパイプのような、なだらかな谷にスプレイ湖が
 横たわっている。地図で見ると、その形は三日月のように
 曲がっている。この湖の周辺は、カナナスキスの中でも、、
 最も手付かずの自然が残っているエリアらしい。
 道路はできているのだが、空から見るかぎり未舗装だ。
 この辺りの湖は、それほど氷河の溶けた水は含んでいないのかも
 しれない。レイク・ルイーズや、モレーン湖、エメラルド湖のような
 ロッキーのど真中にある湖より、湖面が透明で、無色に近い。
 なので、空や景色がきれいに反射して映る。
 自分の足元にあるヘリの小窓越しにシャッターを切る。、
 湖面に、自分の乗るヘリが写っているような気がした。

 

 
 湖面に映る青空と白い雲がキレイだった。

 アシニボイン以外の山々には、残雪がまったくないので、
 ちょっと殺風景な気がした。本来なら灰色に映る山の頂は真白いはずだ。
 天気予報だと、そろそろこの辺りにも寒気が来るという。
 雨が降るとだいぶ冷え込むので、今度降ったら、
 バンフエリアの山もすこしは雪化粧するかもしれない。
 
 

 しばらくすると右側にスリーシスターズの裏側が見えてきた。
 キャンモアに戻ってきた。フライトして30分。短いものだ。
 TCHに沿ってしばらく飛び、Alpine tourのヘリポートに戻ると、
 パイロットのサイモンが握手を求めてきた。
 「Nice Fright!」「What?」「・・・?」 
 「フライト」は、アールとエルのちがいで意味がだいぶ変わる。
 ヒロの言ったフライトは、「怖い」という意味になって伝わってしまったらしい。
 「いい恐怖(を味わせてくれてよかった)だったよ」になってしまったようだ。
 「No! No!」 慌てて苦笑しながら「Good Navigashion!」と言い直した。ホッ。

 ヘリポートを出て、キャンモアの町中にはいった。
 メインストリートに車を置き、みやげ屋に何軒かはいった。そして
 先日行って休みだった手作りのソープショップへ行った。
 キャンモアにはソープショップが3軒あるが、品質が一番良いと
 評判なのが「Rocky Mountain Soap Company」だ。ここでは様々な
 種類の石鹸をブレンドして自分の肌に一番あった石鹸を作ってくれることは
 もちろん、各州のイメージをもとに作った石鹸もあったり、「Body Butter」といって
 スキンクリームのように肌に塗ることで、ドライスキンやオイリースキンを
 押さえる働きをするものもあった。
 夕方までは十分時間があるのでのんびりと散歩をすることにした。
 町角にたつ何気ない看板が、いかにもデザイナーが住みそうな
 雰囲気を出している。小さな町だが、都市にはないおだやかさと、
 洗練されたイメージが散歩の足を軽くする。
 ランチは、カナダで一番有名なドーナッツ&ファストフードショップ
 「Tim Horton」へ。かつてNHLで大活躍した有名なアイスホッケーの選手だった、
 ホートンの店で、カナダ国内のどんな田舎でも必ず1軒はあるという。
 こちらですっかりハマったサーモンのベーグルサンドと、コーヒーを頼んだ。

   
 酒屋の裏手にて           騎馬隊博物館前にて

   
 教会にて             パトカーのドアにはこんな紋章が・・

 夕方に間に合うようにバンフに戻った。
 予約しておいた乗馬の準備をして、厩舎へ向かった。
 泊まっているB&Bからは、いつもの朝散歩コースの先なので近かったが、
 ちょっと雲行きが怪しくなっていたので車で行った。
 1年ぶりのTrail Rideにワクワクする。

 今回、参加者はヒロを含め4人。まず、ユースに泊まっているという二人組の女の子。
 一人はオージー、もう一人はエドモントンから。残りの一人も女性でアメリカ人だが
 40才くらいだろうか、とにかくしゃべりまくる人。ヒロが日本人とわかると、
 自分のカメラがミノルタだと自慢していた。ミノルタ?そういえばナイアガラの滝の
 ほとりに立つタワーもミノルタだったような・・。
 このほか、長身でジーンズが似合うカッコいいガイドの男性が一人と、
 女性スタッフが二名つき、計7頭立てのにぎやかなパーティとなった。
 ヒロの馬は「Boon」というらしい。おとなしそうな顔が賢そうだった。頬をなでて
 挨拶をしてあげて乗込むと、ガイドがスタートの口笛を吹いた。
 天気はとうとう小雨交じりとなってしまったが、気分は上々、手綱さばきも二回目は
 慣れが早い。ちょっと早歩きさせたりしてBoonとスキンシップをする。
 
 ヒヅメの音が、シンとした森に響く。
 ボウ川に沿った道なので、景色が見渡せていい。
 遠くからエルクの鳴き声が聞こえる。この時期、エルクはオスが自分の縄張りと
 子孫を残すため、メスを何頭も引き連れている。いわゆるハーレムだ。
 運がいいと、オス同士の戦いが見れる。角と角を突き合わせて
 押し合いをする。ときどき、その鋭い角が体に刺さり、
 命をおとすオスもいるらしい。
 
 Boonがときおり鼻を鳴らす。
 よく手入れされた「たてがみ」が、
 小雨の中でつややかな光を作っていた。



                     つづく



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