第13章   「Eagle's Eye」


  バンフからTCH(トランス・カナダ・ハイウエイ)を
  東へ走ると、20分ほどでキャンモアに着く。ロッキーへの
  旅の拠点となると、とかくバンフ、ジャスパーなどが
  多く取り上げられる中、トレッキングや、アウトドアスポーツを
  楽しむ人々が好んで選ぶのが、100年ほどの
  歴史を持つケンモアだ。
  近くの山麓にあるノルディックセンターは、
  カルガリーオリンピックでノルディック(クロスカントリー)会場になった。
  今もカナダ西部では屈指のスポーツエリアだ。
  また、人知れずひっそりとたたずむ湖が多く点在するのも
  ここの魅力だろう。毎年秋になると、アラスカからコロラド方面を
  目指す7000羽以上のゴールデン・イーグル(白頭鷲)たちの羽休め場所になっているという。
  そしてなんといってもロッキーエリア最大の
  ヘリツアーの拠点になっていることが一番の人気だ。
  ここケンモアは、バンフを中心にロッキーをある程度楽しんだ人々が、ジャスパーなど
  さらにゆっくりと滞在する静かな、そして通好みな町のひとつなのかもしれない。
  
  インターチェンジから、「1A」と呼ばれる旧道の国道1号線へ入り、
  ケンモアのシンボルになっている3連峰「スリーシスターズ」を背に
  しばらく走ると、ヘリポートが見えてくる。
  
  今回乗るヘリは、
  「Alpine Helicopters」という会社が運営している。
  4つの子会社で、ケロウナ、ゴールデン、バンフなど、
  カナダ西部の主要なエアツアーエリアを飛びまくっている。
  あとで判ったことだが、
  10年前にヘリスキーをしたときも、この系列だった。あのときガイドを
  してくれたエリックさんは、まだ元気に氷河を滑っているのだろうか。

  赤い屋根が可愛い、ログハウス風の建物に入り、
  チェックインを済ませると、別室に通されて搭乗前の注意事項等が
  VTRに映される。国籍を聞かれたあと、テープが再生されると日本語版だった。
  こっちへきて以来、TV画面から聞く日本語は久々だった。
  ちょっと笑ってしまった。
  ほかに日本人はいないので、一人で見ているうちに、いちいち声を
  出してうなづいている自分に気づいたからだ。ビデオは15分ほどで終わった。

 
  セルフで煎れるコーヒーを片手に外のデッキへ出る。ログベンチに腰をおろし、
  秋にしてはポカポカな日差しを背中に浴び、マグカップを両手で
  包みながらヘリを待つことにした。
  自分がこういうシチュエーションの中にいることがますます好きになっていた。
  穏やかな秋晴れの日光がなんとも心地よく、コーヒーの湯気がリラックスを誘う。
  デッキの囲いの端に止まった名の知らない鳥が、
  きょとんとした目でこちらを見ている。
  
 
  
  ヘリポートは全部で7つあった。内、2機が待機中で、乗客を乗せたあと、
  短い滑走路のようなところまで低く移動し、一気に飛び立つ。
  まもなく、遠くからバリバリと響く音が近づいてくると、スタッフに呼ばれた。
  スタッフに最後のブリーフィングを受ける。ヘリまでの移動は姿勢を低く、
  シートベルトはしっかりと、会話は機内のインカムでできる、などなど。
  一緒に乗る初老の夫婦がヒロに、ヘリ前部の助手席を譲ってくれた。
  せっかくビデオカメラを持っているのだから・・と笑顔で勧めてくれた。
  ヘリはもう着地していて、ローターがヒュンヒュン鳴っている。
  スタッフがインカムを押さえながらヘリまで誘導してくれた。
  助手席に座り、5点式のシートベルトを着けて、インカムをはめる。
  ガラス張りのコクピット内がやけにまぶしく感じる。ワクワクしているのに、
  「考えてみればヘリって
  日本車と同じ右側が操縦席だなあ・・」、なんてヘンなことを
  思ったりしながらも、ビデオをオンにした。

     
  外にいるスタッフが親指を立てる。パイロットがそれに応えると
  ローターの音が太く、大きくなった。ヒロの乗ったヘリがフワっと浮いた。
  一年振りのヘリ。前回はナイアガラでのアクロバチックな小型ヘリだったが、
  今回は余裕の4人乗り。機内の音もインカムのおかげでそんなにうるさくないし、
  会話も可能だ。耳元からパイロットの声が聞こえてきた。
  「Everybody Let's Go!」
  滑走路まで低く後退したあと、ヒロの乗ったヘリは
  真っ青なケンモアの空へ飛び立った。

  ヘリは上昇を続けながらまっすぐ飛ぶ。進路はほぼ西。
  足元には足を置くバーが1本あるだけで、その下はガラス張りだ。
  トロントにそびえるCNタワーの展望台にあるガラス張りの床を思い出した。
  今回はバーがある分、まだアレの方が怖い。高度計はクルクル回っているけど。

  
  今日のパイロットはMr.Simon

  最初に目指すのはスリーシスターズだった。
  もう目の前に迫ってきている。ヘリポートから見たときは
  けっこう距離があると思ったのだが、ものの数分で
  「カナナキス(この辺りのリゾート地帯)の三姉妹」が
  出迎えてくれた。
  
  
  ヘリは、スリーシスターズを左に見ながらすこしづつ右へ
  向きを変えた。どうやら3つの山のうち、いちばん右の山を
  かすめ飛ぶらしい。インカムからサイモンの声が響く。
  彼はガイドも兼ねている。25才だというが、ホントかどうか怪しい^^;
  
  太陽はキラキラと山々や湖を照らし、機内の温度も上昇していた。
  着ているチャチルのフリースが暑く感じる。
  さっきまで足元で走っていたTCHが針葉樹の絨毯に埋もれて見えた。

  アラスカから渡るイーグルがうらやましく思えたのはヒロだけだろうか?



                        つづく

                   
  カナダレポート トップへ