前号までの行程
 
 
 サルファーMt.山頂に立つ半旗(9月17日)

 2001年9月10日に成田を出発。11日朝にウイニペグを発ち、マニトバ州チャーチルへ向かう。
 フライトの15分ほど前にNYの世界貿易センタービルにハイジャックされた2機の
 旅客機が激突。同時多発テロが起きた。チャチルへの機上で全世界の空路が
 閉鎖の決定を下され、チャチル到着以降〜15日まで滞在。
 テロ事件の影響で日本への帰国便が未定のまま
 9月15日(土)にバゲージロストの状態でバンフに到着したヒロは、
 ケンモアや、サルファーMt.を巡り、
 17日(月)夜、ギフトショップのオーナー、コウヤマさん
 のヘアカットをするため、雨の中、車を走らせた・・・。

 


   第12章  「Canadian Japanese,Japanese Canadian」


 車がメインのBanff.Aveに入ると、雨が本格的に
 降っているのに気づいた。B&Bのある松林では雨量がよく分からない。
 左ハンドル、右側通行のカナダ。夜間走行で、しかも雨だと
 さすがに走り慣れ始めたこの道もちょっと緊張する。左折車線に
 入って信号が変わるのを待つ。Cave Ave.からここを左折するとボウ川にかかる橋だ。
 午後8時を回ると人影もまばらだった。
 NYテロ事件以来、掲揚されている全ての国旗は半旗になっている。
 ボウ川の橋のたもとに建つカスケードガーデンは公園の管理事務所だ。
 前庭にはたくさんのロッキー産の花々が咲いていて、その中央にひるがえる
 メイプルリーフも半旗になっていた。そしてガーデンの入り口の門には
 たくさんの花と平和のメッセージが、NYの教会と同じように供えられていた。
 Banff.Ave沿いの教会は一晩中ライトアップされ、ここの前にも
 同じようにキャンドルや、花が供えてあった。雨がそれらを無情に濡らす。
 山に囲まれたバンフはひときわ夜は暗い。暗闇の中で浮かび上がる
 祈りのモニュメントだけが神々しく光っているように見える。
 事件からちょうど1週間経っていた。

  
 アメリカCNNは報道番組を24時間放送。この頃のタイトルは
 「America's New War」
 空港のセキュリティが最高に強化されている映像がしょっちゅう流れた。

 コウヤマさん宅では、バンフに到着するまでのいきさつや
 ヒロのカナダに関わってきた話はもちろん、コウヤマさんの
 カナダに住んでいる側ならではの話など、盛り上がりも手伝って
 とても楽しむことができた。
 異国で生活することは、普通では考えられない苦労も少なからずある。
 観光として、あるいは一時的な滞在としてだけでは、やはりいいことだけしか
 体験せずに日本へ帰ることになることはしょうがない。
 日本のバブル崩壊後、不況が押し寄せ、それがジワリジワリと観光地である
 バンフにも押し寄せたことも事実なのだ。ただですらカナダ国内の
 就職事情は、一種独特な事情もあり、そう簡単に仕事があるわけではない。
 毎年多くのワーホリや留学を志す人々がカナダを目指すが、現地での仕事探しが
 まず大変なのは、経験者なら誰もがうなずくだろう。
 コウヤマショップですらテロ事件はかなり深刻な打撃だそうだ。
 でも、コウヤマショップはもちろん、カナダに来るとヒロはいつも元気を
 たくさんもらってくる。
 この不思議な雰囲気は何だろう?
 今までに、何人かのカナダ在住の日本人や、ヒロのたどたどしい英語に付き合ってくれた
 カナディアンとも、いろいろな話をさせてもらってきた。一様に感じるのは、
 財を築くことや、名声を得ることが生きる目的ではない。自分が一番いいと
 思った生き方のとおり生きようとしていることが強いことだ。これは誰もが思っている
 ことだろうが、日本で普通に生活していると、意外にもこんな感触は受けないことの方が
 多いのではないだろうか。
 でもそんな人生を誰もができるとはいえないだろう。もちろん努力次第とも
 いえるが、自分に優位な周りの環境や物質的な条件、個人的な能力よりも、
 まず最初に必要なのは、何事も、ものごとをいつもおおらかに
 考えられるような気持ちや、いざっという時こそに持てる
 「生きていく」ためのしたたかなまでの強い意識なのではないだろうか。
 ものの考え方をちょっと変えるだけで、同じ努力でも結果は
 だいぶちがってくるという。自分が目指す生き方をどう考えるか・・。

 コウヤマさんは、先ほどから自慢のダイキャストコレクションを見せてくれている。
 カナダの魅力は、大自然や歴史ある人々の遺産だけではない。
 自分自身をこの国に置くことで、自らの生き方に大切なアドバイスですら
 与えてもらえることもあるのだ。

 9月18日(火)。
 昨夜は帰りが遅かったため、日課の朝散歩ができなかった。
 朝食後のコーヒーの暖かさがだんだんうれしくなってきた。
 日いちにちと、冷え込むようになってきた証拠だろう。
 リビングの窓からのぞむ天気は、昨夜の雨が嘘のように晴れている。
 今日はケンモアからヘリに乗ってMt.アシニボインをめざし、
 夕飯はTrail Ride(乗馬)のBBQコースだ。
 朝食後、必要な荷物を車に乗せてキャンモアへ出発した。
 

 途中、バンフ駅に寄って時刻表を確認した。バンクーバーとバンフを
 結ぶロッキー越えの定期列車「ロッキーマウンテニア号」を見るためだ。
 チャーチルでのVIA「チャーチル号」と、マウンテニア号、そして
 トロント〜バンクーバーの「カナディアン号」が国内最大級の
 大陸間鉄道だ。辺境のチャーチル号、横断のカナディアン号に並び、
 マウンテニア号は、とにかく車体の優雅さと美しさ、そして車窓からの眺めが
 絶景として大人気だそうだ。
 バンフ駅には3日に一度到着する。水曜日の午後6時にバンクーバーからの
 便が到着することを確認して、車をハイウエイへ向かわせた。
 


               つづく
 

  

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